現役高校教員が選ぶ「夏休みに読んでおきたい!」

夏休みを迎えたみなさんにおすすめの書籍を紹介します。「コロナ」のこと、「勉強」のこと、「教育」のことなど、いま考えたいテーマに沿って5冊の書籍の書評です。評者=高野慎太郎

30分で読む!アフターコロナ世代の子育て

山田真・石川憲彦,ジャパンマシニスト社,2020年

コロナと正しく付き合うために

・小児科医と児童精神科医である2名の著者が、「アフターコロナ世代の子育て」について丁寧な解説をしてくれる。本文は「まず、感染書を知る」、「ストレスと子どもへの影響」、「将来への教訓と備え」の三章からなる。

・いずれも疫学や心理学の知見に基づく確かな内容だが語り口が極めて平易であるため、本当に「30分で読める」。評者はリモートワーク中に蕁麻疹の症状が出たが、本書で「蕁麻疹」に関する解説を読んでいたため、過度な恐れを抱かずに済んだ。

・正しい知識は、ストレスを軽減してくれる。今後、ウィズ・コロナの生活が続くことは間違いない。本書を導きの糸としながら、これからの生活について家庭で考えてみるのも良いだろう。コロナと正しく付き合うために必携の一冊である。

子ども白書2020

日本子どもを守る会,かもがわ出版,2020年

コロナ災禍のいま・ここから未来を構想するために

・『子ども白書』は、子どもの人権の視点に立ち、児童・生徒や大人の取り組みを紹介してきた。ちなみに、昨年版の本書には、私が顧問を務める中高生の有志団体「性の自分らしさを考える自由の会」の活動の模様も掲載されている。

・2020年度版では、「コロナ 子どもクライシス」と題した緊急特集が白眉だ。コロナウイルスの流行は、間違いなく、私たちの人権の在り方に大きな影響を与えたと言えるだろう。

・本書では、経済的困窮、ひとり親、教員のブラック労働など、このコロナ禍が教育にとって何であったのかが纏められている。我々は、社会に生じる禍福いずれも教育の肥やしとして、より善い社会を創っていかねばならない。これからの未来を構想するためにこそ必読の一冊である。

「生存競争」教育への反抗

神代健彦,集英社,2020年

社会適応から世界体験へと教育を創りかえる

・本書の肝は「教育を子どもが世界と出会う体験にせよ」とのメッセージにある。学校教育は子どもの社会適応に拘泥しすぎる。とりわけ、「社会」で必要となる「コンピテンシー」を育成するための教育が行われたことで、どれほど教育が味気なく、つまらないものになったか。

・社会は規定可能なもので、世界は未確定なもの。世界は社会よりも広く、ずっと深い。いまこそ、教育を未確定な拡がりへの入口として創りかえるときなのだ。学ぶ「意味」などいらない。学ぶ「享楽」があればいい。社会適応などいらない。世界体験があればいい。教育は、それ以上でもなく、それ以下でもない。

社会正義のキャリア支援

下村英雄著 図書文化社 2020年

社会正義に取り組む教育学の最先端を学ぶ

・著者は「キャリア教育」の第一人者。「キャリア教育」は、人のキャリア(生き方)を支援する教育分野で、進路面談がその代表的とされてきました。一方で、「社会正義のキャリア教育」という系譜もある。例えば、部落差別や貧困、人種差別や性差別といった社会問題に、教育の視点から立ち向かう立場です。
・「キャリア教育」と「社会正義」が繋がるのはどうしてでしょうか。100年以上続いてきた職業支援や進路指導の営みの中で、貧困によって進学をあきらめたり、差別によって就職できなかったりする人々の困難に直面してきました。そうした人々に対して心理的なアプローチをしても、問題の半分しか解決しません。個人の不条理の基因となる、社会の不公正をこそ変革せねばならないという切実な危機意識が、「キャリア教育」と「社会正義」を繋ぐのです。
・教育社会学的な常識からすれば、社会の不公正に対して、教育は何の効力も持たないかもしれない。そのことは百も承知の上で、それでも、教育を通して理想の社会をつくることは出来るのだと強弁し、実践を続けることが「社会正義のキャリア教育」という立場なのだと、僕は理解しています。本書には、その真髄が盛り込まれています。

勉強の哲学

千葉雅也著 文藝春秋 2020年

深く勉強するって、どういうことだろう?

・著者は、フランス現代思想の泰斗。専門的な内容に触れていますが、丁寧な文体で書かれていますので中学生でも理解することができます。以下、2箇所だけ要点を抜き書きしておきます。続きはご自身で…

・「人は、『深くは』勉強しなくても生きていけます。深くは勉強しないというのは、周りに合わせて動く生き方です。状況にうまく『乗れる』、つまり、ノリのいい生き方です。(略)逆に、『深く』勉強することは、流れのなかで立ち止まることであり、それは言ってみれば、『ノリが悪くなる』ことなのです。」

・「言語は、現実から切り離された可能性のある世界を展開できるのです。その力を意識する。わざとらしく言語に関わる。要するに、言葉遊び的になる。(略)自分のあり方が、言語それ自体の次元に偏っていて、言語が行為を上回っている人になるということです。(略)深く勉強するとは、言語偏重の人になることである。」

プロフィール

高野 慎太郎

1991年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院教職研究科修了。早稲田大学高等学院助手を経て、中国・安徽大学外語学院客員講師、自由学園女子部中等科・高等科教諭。