これほど薬を飲みまくる時代は、いまだかつてなかったのではないでしょうか。
私自身も、頭が痛ければ頭痛薬、腹痛があれば腹痛薬といったように、症状に合わせて便利に薬を服用してきました。もちろん、お医者さんからいただいた薬は、たとえ中身がよく分からなくても、きっちり最後まで飲み続けます。
教育現場にいる私が実感するのは、最近は、子どもたちも、けっこう気軽に薬を服用するということです。小学生であっても、身体に不都合が生じたのならば薬を飲めば良いといった調子で、まるでサプリメントのように薬を飲むようになりました。
長い間、日本は少子化傾向にあり、子どもの数は減少しています。その一方で、発達障害やADHDと診断される子どもの数は一貫して増加しており、コンサータやストラテラといった向精神薬を服用する子どもの数も増加してきています。
腹痛をおさめる薬であろうと、向精神薬であろうと、薬というものは基本的に人工物であり、「毒」であると、石川憲彦先生(児童精神神経科医)は書いています。体に取り込まれた薬はあらゆる臓器を駆け巡り、蓄積的な副作用をもたらします。
人工物である以上、本来、身体が想定している薬の受容量は「0」がベースです。そのため、少量であっても薬の服用に際しては、常に中毒や依存のリスクが伴います。我々には見えない預かり知れぬところで、身体に大きな作用をもたらすのです。
とくに、子どもの身体は、化学物質に対して極めて敏感な反応を示します。その反応の仕方は、発達段階に応じてもまた変化します。子どもが薬を飲むということに際しては、いくら注意を払っても足りないほど、十分な注意が必要なのです。
この本では、石川先生が実際の臨床現場で相談を受けることの多い「薬のやめ方」を中心として、「精神科で使われる薬」「薬の『副作用』とはなにか」「子どもの成長と薬の関係」「薬の使い方――その原則と『治療仮説』」「薬をやめるときに」といった章立てで、薬の捉え方や薬との関わり方についての解説がなされます。
本書は、2019年にジャパンマシニスト社が開設したYou Tubeチャンネル「ちえぶくろ相談室」の配信内容をもとにしており、語り口はやわらかで、どんどん読み進めていくことができます。しかし、内容は多岐にわたり、そして深いです。
例えば、「向精神薬が脳のどの部位で効いているのか」という話題に関連して、脳の神経系ネットワークが図解入りで解説されるなど、薬と人の関係を考えるために必要な情報が、程度を落とさずに、ていねいに解説してあります。
私がもっとも印象的だったのは、「治療仮説」という考え方です。この話題が登場するのは本書の第4章、イギリス精神医学における「薬を使うときに守るべき11の原則」という知見を紹介しながら、石川先生が「『治療仮説』を大事にすること」という原則を付け加えます。
薬が人工物である以上、身体に取り込む際には作業仮説を立てて、患者と医師で仔細に薬の作用をウォッチしていくことが求められます。もちろん、「治療仮説」のゴールは「薬をやめること」です。
《書籍情報》「心療内科・精神科の薬、やめ方・使い方」
石川 憲彦(児童精神神経科医)
ジャパンマシニスト社 2021年3月6日刊行
今回扱った書籍『心療内科・精神科の薬、やめ方・使い方』を出版するジャパンマシニスト社では、子育てに悩みを抱える家庭の応援として「子育て本」の定期送付、専門家によるオンライン相談を盛り込んだ支援プログラムを企画。その実現に向けて現在クラウドファンディングを実施しています。ご協力をお願いします。